京のおかず編
最終更新日時: 2018-08-07 12:14:59「京野菜は、京都の水で焚いてやるんが一番おいしい」と、ある料理人さんに聞いたことがあります。となれば、京都の水で炊いた京都米に一番合うのは、やっぱり京のうまいもん!? ちょっぴり贅沢な「ハレ」のごはんのお供と、余りものでチョチョッとつくる「ケ」のおかず。どちらも捨て難い、京都人のお気に入りです。
ハレの日レシピ いつもはお使いものにしている「アレ」を、自分用に!
のとよの「お茶漬け鰻」と、とり松の「鯖おぼろ」
「ハレとケ」という言葉をご存じですか? 漢字で書くと「ハレ」は晴で、晴着を身につけるような“特別な日”のこと。いっぽう「ケ」は褻という少しむずかしい字を充てて、こちらは日常のこと。普段着のことを「褻着」という言い方もするそうです。というのがハレとケの一般的な定義。ですが、ここでいう「ハレの日レシピ」は、もうちょっとユル〜い、いわば心のハレの日の一品。「今日はちょっとだけ財布の紐をゆるめてみよか」といった時に選ぶ、ごはんのお供です。
そういう気分の時、私が真っ先に買いに走るのは、「お茶漬け鰻」です。昨今、京都土産として大人気のちりめん山椒同様、このお茶漬け鰻も、いくつか、それと知られたお店があって、京都人のなかでも「私は○○がええ」、「ウチは××のだけしか買うたことない」など、好みが分かれるところですが、私のフェイバリットは錦市場の川魚屋「のとよ」のお茶漬け鰻<お得用>(ハレ、と言いつつお得用もナンですが<笑)。ここのは「お茶漬け……」と銘打ちながらも、あまりガチガチの佃煮風でないのが良く、まず一膳めはお茶をかけずに味わうのがおすすめ。できれば蓋付きのお茶わんで、アツアツのごはんに鰻を載せ、しばし蓋をして湯気で蒸らせば、さらにふっくら、鰻の風味も引立ちます。そうしてじゅうぶん、鰻丼風の味わいを楽しんでから、二膳めあたりでお茶漬けに。この時のお茶は、番茶やほうじ茶より玄米茶が合うように思います。
とくに、最近、寺町通りで見つけた「京都ぎょくろのごえん茶」というお店の玄米茶が、とっても香ばしくてお気に入り。このお茶屋さん、パッと見は可愛いパッケージのティーバックなどが並ぶ「土産物店風」で、正直、お茶の味はニの次なのかなと思いきや、どうしてどうして。ふつう玄米茶は一煎めは美味しいけど、二煎めは玄米もふやけるし、香りはもひとつ……。なのに、ここの玄米茶はどうした工夫があるのか、二煎めまでしっかりと香ばしい。その香りが、鰻の風味と、ほんに好相性なのです。
そのほか、たまに無性に食べたくなるのが、丹後の「ばら寿司」で知られる「とり松」の鯖おぼろ。京都駅などで売っている10㎝四方くらいの可愛い「ばら寿司」、ご存じの方も多いのでは? あのお寿司に挟んである鯖のおぼろだけを袋詰めにしたものですが、これが甘辛ほわほわの懐かしい味。JR京都伊勢丹の地下2階の小さなコーナーで売っています。
和久傳のちりめん3種
今や、京都を訪れる人は必ず買って帰るのか? と思われるほど、京都の味として知名度の高まった「ちりめん山椒」。どこ店のが好きか、おいしいか、と他府県から来る友人に訊ねられたことも、一度や二度ではありません。そしてそのたびに、答えにちょっと困ります。どこのが一番おいしいんやろ……。そもそも「ちりめん山椒」て、誰がつけた名前なんやろ……。
というのも、京都の人たちにとって、それらは皆、一様に「おじゃこの炊いたん」で、私が小さい頃は、わざわざお店で買うものでも、売るものでもなかったから。それが、あれよあれよという間の大出世で、今や贈答品としてもかなりハイな位置づけ。各お店の工夫で選択肢も増え、味もそれぞれに良く、昔、家で炊いたものがお膳に出ていた時には「フン」とそっぽを向いていたことも忘れ、この頃はすっかり、おもたせに頂いては喜び、また他所にお持ちしたりもしています。
そういうやりとりの時に、いいなと思うのが、風味や種類の違う3種のおじゃこが詰め合わせになった、和久傳の「ちりめん3種」。もちろん3種を別々に買うこともできるのですが、詰め合わせを求め、全部一度に封を開けて、あっさり炊いてあるのや、大きめでギュッと噛み応えのあるのなどを、あっちがええ、こっちが好き、などと言いつつ順番にごはんに載せて味わうのが、なんとも楽しく贅沢。ひと袋ずつ開封していては、このワクワクは味わえません。一度にバッと、が醍醐味です。
お漬けものいろいろ
漬物がハレ? と仰るなかれ。自分で漬けるならいざ知らず、京都の有名どころでお漬けものを買うのは、かなり贅沢な行為です。なかでも冬場の「千枚漬け」や「すぐき」などは、きっとグラムで言うと牛肉より高いはず。その値打ちを知った人どうしの間での「ありがたい贈りもの」としてはよく使っても、ふだんの食事用にお気に入りの漬物店のものを、あれもこれもとざくざく求める京都の人を、私はあまり見たことがありません。
けれどそれだけに、たまにはタガを外して、「お漬けものを好きなだけ買いたい」気持ちになるのです。そして、そんな風に買って大皿に並べた「お漬けものプレート」は、ホームパーティーでも人気の的に。これに、上記の「土鍋ごはん」があれば、もうそれだけで、とっても楽しくて洒落た宴会ができそうです。
ちなみに、お漬けものも「どこのがおいしい?」と聞かれる率が高めのものですが、うーん、これも難しい!それぞれのお店に、お得意の品があるし、甘めが好きな人、酸っぱめが好きな人、といった好みもあるし。季節によっても違うし……。春から夏に食べたくなるのは、川端二条のちょっとわかりにくいところにある加藤順漬物店の「菜の花漬」や、胡瓜やお茄子の色がそのままの、淡味のしば漬け「浅しば」、パリッと気持ちよい歯応えとみずみずしさがたまらない、京つけものタケダの「朝うり」。冬の千枚漬けも大好きですが、じつはいまだに、「ここのが最高!ここでなくては」と固く心中立てするほどのものに出会えていません。あのお漬けものは気随なお嬢さんのようなところがあって、食べる時期がほんの1日、2日ずれるだけで味が変わってしまう繊細なシロモノ。おそらくベストタイミングで食したことがないのでしょう。今年こそ、運命の出会いがあるといいのですが。
始末レシピ 大根の葉っぱもだし昆布も、使いきって気分スッキリ!
「始末」は京都人のモットー。「冥加に悪い」というのも、京都の子どもたちが事あるごとに言われ続け、耳に残るフレーズのひとつです。最近はすっかり聞かなくなりましたけど。「冥加に悪い」とは、「あまねくものから享けている加護をおろそかにするな」といったようなこと、でしょうか。まだ食べられるものを捨てたりすると「そんなことをしたら冥加に悪い」、そこで不思議そうな顔をする子には「バチがあたるえ!」と念押しされたものでした。
とはいえ、慌ただしい日常、すぐに手をかけられず、結局傷めてしまいそうなものはエイッと捨てもしますが、少し時間がある時には「始末レシピ」を実践すると、なぜか気持ちが、いいところに落ち着きます。とてもカンタンなので、ちょっと試してみませんか?
始末レシピ01
大根の葉っぱのふりかけ
青々と立派な大根葉でなくても、チョロッとついてる茎のようなところだけでもOK。大根葉が立派な時は、かつおぶしを2パックに。
材料
- 大根の葉っぱ(1本分)
- かつおぶし1パック
- 醤油、ごま、ごま油、塩少々
つくりかた
- 大根の葉っぱは細かく切って、塩をひとつまみかけてまぶす
- 葉っぱが少しシナッとしたら水気をしぼる
- フライパンにごま油をほんの少し敷き、大根の葉っぱを炒める
- 3にかつおぶしを入れ、醤油をまわしかけ、ごまを手でもみながら入れ、パラパラになるまで炒めたら出来上がり
※ベーコンの端っこなどをみじん切りにして一緒に炒めてもおいしいです。
始末レシピ02
だし昆布のササッと佃煮
鍋料理や煮物のだしをとる時に使った昆布を有効利用。市販の塩昆布よりあっさり炊けて昆布の風味が楽しめます。
材料
- だしをとったあとの昆布(10センチ角、3枚くらい)
- 濃口醤油(半カップくらい)
- 酢少々
- みりん(大さじ2)
- 酒(醤油の半分ほどの量)
- 砂糖(大さじ1/甘めが好きな人は多めに)
- 実山椒(旬にサッとゆがいて冷凍しておいたもの/なければじゃこなど)
つくりかた
- だしをとってやわらかくなった昆布を小さめ(1.5センチ角くらい)に切り、濃口醤油、酢を入れた鍋に入れて弱火にかける
- 酒、砂糖を加えてさらに煮る
- 実山椒、じゃこなど入れ、みりんを加えて味をととのえたら出来上がり
※冷蔵庫の中にちょっと残った「ちりめん山椒」など入れて一緒に煮ると、上手そうに仕上がります。
始末レシピ03
糸コンの明太子炒め
冷蔵庫の中で、乾いてしまった明太子の切れ端を見つけた時などに!ほとんどコンニャクなんでカロリーも低くダイエット中にもおすすめです。
材料
- 糸コンニャク(1袋)
- 明太子(2〜3センチ分くらい)
- ねぎ
- 醤油少々
つくりかた
- 糸コンニャクは水を切り、長ければ料理ばさみなどで適宜カット
- 糸コンニャクを油を敷かないフライパンで水分がとぶまで炒める
- 明太子を皮ごと入れ、ほぐしながら一緒に炒める
- 小口切りにしたねぎを入れ、醤油少々で味を整えたら出来上がり
※明太子に風味があるので調味料は醤油だけ。中華風にしたい時は顆粒の中華スープの素などを入れてもOK。
安藤寿和子(あんどうすわこ)
1964年京都生まれ、京都育ち。ライター。Interview&writing オフィスアンド主宰。京都に生きる人、店、職、芸などをテーマとした本づくり、インタビュー、原稿執筆などが仕事の中心。これまで携わったおもな媒体に、季刊誌「JAPONisme」、「ひととき」(新幹線のグリーン車搭載誌)、「別冊太陽」、写真集『錦のみこし―祇園祭と京の台所』(藤本惠一郎)など。京都のふしぎをイラストとエッセイで紹介する『京都のふしぎ・イラスト事典』(ウェッジ)の上梓に向けて準備中。